TEO Side Story TEO Side Story
last updated 1997/09/06

第114話(全130話)

最後の一匹(2/5)




「エクス!」
 マリカが叫ぶ。
「ドラゴンじゃないわ。あれはエクスよ!」
「エクス?」
 蛇腹の腕を支えにして起き上がりながらピートが訊いた。その視線の先でドラゴンよりも大
きな翼を持つ四つ足の生き物が甲高い声で鳴きながら空を旋回していた。その影に向かって森
の中から幾本もの槍が投げられる。ドーンという鉄砲が火を吹く音も聞こえた。
「駄目ええ!」
 マリカが声を限りに叫んだ。
「あなたたちプロのドラゴン・スレイヤーでしょ! 獲物をちゃんと確かめてから槍とか投げ
なさいよッ。あれはエクスよ、ドラゴンじゃないわ! もう絶滅したはずの生き物よ。それが
わからないの!」
 マリカは銀色髭へと猛然とダッシュすると、弓矢を構えているその大男に体当たりした。ど
うと倒れる銀色髭は起き上がりざまにマリカへと剣を抜く。マリカも腰の剣を抜いて構えた。
「エクスだろうがドラゴンだろうがどっちだっていいんだよ、お嬢さん」と銀色髭。
「どういうことよ。あれが最後の一匹かもしれないのよ!」
「やかましい!」
 怒鳴って銀色髭はマリカへと突進してくる。重量のある剣がぶんとマリカの鼻先をかすめた
。「やめろ!」
 ルーワンがマリカの救助に走ったが、彼もまたマリカと共にスレイヤーたちに囲まれた。荒
くれたちはマリカとルーワンめがけて剣を突き出す。それをかわしながら、マリカはルーワン
と共にジリジリと断崖へと追い込まれて行く。
「何故なの!」とマリカ。「あなたたちプロなんでしょ? だったらどうしてドラゴンとエク
スの区別もつけられないのよ!」
「区別はつくさ。けど、どっちだって同じなんだよ。俺たちゃ報償金を貰えりゃそれでいいん
だ。ドラゴンならこの島の長が金を出す。エクスだとなりゃケダックが金を出すさ」
 言いながら銀色髭はマリカの剣に切り付けられることは承知の上で体当たりをしてくる。マ
リカはひるんだ。いままで実戦をした経験がない。練習では、斬りつけられるのを承知で突っ
込んでくる者はいなかった。けれど、これは練習ではないし、剣の道を高めようとする者が相
手でもなかった。とにかく相手を倒せばそれでいい、と夢中で攻めてくる男たちが相手だ。銀
色髭に何人かの男たちが加勢する。一団となって突進してくる彼らを剣のひと振りで押し返す
ことがマリカにもルーワンにも出来なかった。銀色髭はたとえ腕や肩に斬りつけられても、自
分の体重で姫君を崖下へ落としてしまえば、それでいいと思っていた。ドラゴン相手の死闘を
何度もくぐり抜けて来た彼には、自分の身を無傷で守ろうという発想がはじめからない。捨て
身で来る者に、マリカの剣も動きを止めてしまう。ルーワンはマリカの横に並んでいた。
 ピートはふたりの側へと猛然と駆け寄ろうとしていた。しかし蛇腹の足がもつれてスピード
が出ない。この体は斜面を駆け降りるのに適した造りにはなっていないのだ。
 駄目だ。間に合わない。ピートはそれを見て取った。銀色髭がマリカたちにタックルを決め
る前に、両者の間に割って入るのは無理だ。どうしてルーワンはマリカの横に立ってるんだ?
 ピートは悔しさに顔を歪める。ぼくなら絶対マリカの前に立つ。そしてマリカの盾になる。
突進の勢いをこの体で受け止めてやれば、その隙にマリカは右でも左でも自由に体を飛ばして
男たちの突進をかわせるはずだ。それくらいの敏捷さは持っているマリカなのだ。だがピート
はマリカの前へと走り込めない。
「ケンプ!」気が付いたらピートはそう叫んでいた。「マリカたちを空へ逃がして!」
 叫ぶと同時にケンプは矢のように飛んだ。飛びながら風のロープでマリカたちを縛り、その
まま大空へと引っ張り上げる。一緒に舞い上がるワーターの尻尾に木陰から飛び出してきたパ
ピロがしがみついた。目標が眼前で忽然と消え、銀色髭は慌てて急ブレーキをかけた。しかし
慣性の法則に逆らえないで、そのまま断崖から落下しそうになっている所を、走り寄ったマス
ターが引き戻した。
「ドラゴンかそうでないのかも区別できないで、それでもあなたはプロなの!」
「お前に何がわかるんだ、ロボットめが。いまテオには何か異変が起きようとしてるんだ。だ
とすりゃ、俺は早く故郷へ帰らなきゃならねえ。どんな異変だか知らねえが、それが起こる時
は家族と一緒にいてやりてえんだ。だから金がいるんだよ。ドラゴン退治は報償金が出るし。
あのエクスをドンロンに連れてきゃ、やっぱり懸賞金が出るんだよ。ケダックのドンロンは異
変の予兆を捜してるんだからな。エクスの出現こそその予兆かもしれねえ」
「お金のために、絶滅するかもしれない生き物を殺すの?」
「悪いか? 国で俺の帰りを待ってる子供に、土産を持って帰らなきゃならねえ。邪魔するな
」「土産なら、あなたが無事で帰るのがいちばんじゃないですか。エクスを絶滅から守ったっ
て、そんな素敵な話を持って帰ってあげればいいじゃないですか。エクスの最後の一匹は父さ
んが守ったんだぞって。あなたがそんな笑顔で家に帰ってあげれば、それがいちばんのお土産
のはずなんだ。ぼくだったら、それだけでじゅうぶんだよ。ほかに何もいれないよ!」
 父さんが帰ってきてくれるなら、どんなお土産もいらない。子供なら誰だってそう思うはず
だ。
「ロボットのくせに何がわかる。自慢話や笑顔で子供の腹がふくれるか! どけッ。エクスに
逃げられる」
 銀色髭はマスターへと突進して、そのずん胴な体を崖のほうへ押しやる。あやうく落ちそう
になって、マスターはお腹のハッチからワイヤーを放出して木にからませる。そしてそのまま
体内の電流をワイヤーを通して放電させた。山頂の森に青白い電流のスパークが走った。それ
はさながら稲妻から生まれた蜘蛛が巣を張るようにして木々の間を走り、森にいた男たちを次
々に倒して行く。銀色髭もビンッと背中に棒を入れられたように体を反り返らせてからもんど
りうって倒れた。
「ごめん」
 ピートは荒くれたちに頭を下げる。
〈ピート! 早くッ〉
 電流の蜘蛛の巣をくぐり抜けるようにしてフィンフィンが飛んできた。フィンフィンはピー
トの目の前で体を地面すれすれに下げる。ピートは迷わずフィンフィンの背に飛び乗った。同
時にフィンフィンは空高く体を浮かび上がらせて行く。上空ではエクスが舞っていた。甲高い
声で鳴いている。それは絶滅して行こうとしている種族の、最後の雄叫びのように空を震わせ
た。エクスの周りをケンプが旋回し、その風のロープに包まれたマリカとルーワンがスレイヤ
ーたちを気絶させたマスターを迎え入れる。

(つづく)




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